私の原風景

郷津晴彦 

彫刻作品No.0007、0008
絵作品No.0001-0005
 毎日決まって夕暮れ時になると、鳥が群れをなして飛んだ。こどもの頃住んでいた家の前は畑で、その向こうが雑木林だった。その雑木林の上空を旋回するのである。私が小さいときは何となくスズメだと思っていたのだが、実際はもう少し大きい鳥だったようである。鳥の種類はわからない。何羽ぐらいの群れだったのか想像もつかないが、比較的低いところを飛ぶので、空を埋め尽くさんばかりに感じられた。
 群れの形が細長くなり丸くなり、あっちへ行きこっちへ行き、たまに二つに別れてはまた合体し、雑木林に降りてしばらく休んだかと思うと一斉に飛び立つ。そんなふうにしながら、ひとしきり、空を旋回し旋回し、ねぐらに帰るのである。
 こどもの私は、その様子を毎日飽きもせず、じっと見ていた。小さい時分はただ面白いからぼうっと眺めていたと思うが、成長するにつれ少年は考えるようになる。不思議だ。いったいどうなっているんだ。どうして群れ全体が一緒に動くんだ。群れの中に誰かリーダーがいて合図でも出しているのか。そう思ってじっと観察するがわからない。いくら考えてもわからない。まるでひとつの生き物じゃないか……。
 私にとっての原風景というものがあるとすれば、あの夕暮れ時の雑木林の上空を鳥が群れなして飛ぶ光景をおいて他にない。それは私のこころの奥に染み込んでいる。
 その雑木林も今はもうない。代わりに中学校の鉄筋コンクリートの校舎が建っている。鳥たちもどこかへ行ってしまった。叶うことならもう一度、あの少年と並んであの光景を見てみたい。今では確信を持ってあれは本当にひとつの生き物なんだと言えるが、少年には黙っておこう。

 


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