ニュージーランドに降りた神

郷津晴彦 


 それは十五年前、ニュージーランドだった。ある日、私は南島の小都市ネイピアを訪れた。あるマオリの彫刻家を訪ねて行ったのだが、彼は不在であった。アメリカ合衆国に行っているということだった。仕方がないので、とりあえずその町のはずれにある、ホークス・ベイ・ビーチという海岸まで歩いて行った。
 南半球の三月。晩夏である。私は半袖半ズボンにサンダル姿で砂浜に座り、することもなく、ただぼーっとしていたのだった。
 ふと見ると、白っぽい物がたくさん落ちている。流木であった。波がそこまで届いたという、そのままの形に、長く曲線を描いて連なっている。私は歩み寄って、いくつかを拾った。空は晴れている。リュックの中には虫眼鏡がある。焦がそうと思った。
 太陽光線を虫眼鏡で集めて、焦点を結ぶ。
 最初はただなんとなく、流木の表面に絵を描くように、てきとうに焦がしていった。
 しばらく焦がしてからあらためてその流木をながめてみた私は、なんか違う、と思った。
 なんか違う。なんだろう。
 自然に磨かれて形の良い、肌もきれいな、せっかくの流木を、だいなしにしてしまったような気がした。
 私はちょっと考えてしまった。何を考えたのか忘れてしまったが、へたな考えはよそうと思ったことは覚えている。
 その流木はひとまず脇に置いて、次の流木を手にした私は、今度は何も考えずに、ただ流木のすじに沿って焦がしてみた。しばし、そのまま……。
 一本の焦げ目をつけた流木を見て、私は驚いた。
 私がつけた焦げ目が、なんというか、ぴったりとはまっていた。その流木の形の良さ、きれいさに、ぴったりとはまっているように見えた。その流木本来の、なんというか何かが、その時にはまだ言葉にならない何かが、鮮やかに立ち現れているように感じたのだ。
 それから何時間か、陽が傾いて日光が弱くなって木が焦げなくなるまで、私は夢中で何本かの流木を焦がし続けた。


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