ぶっとい万年筆

山下 裕二 

 郷津さんからの手紙の文字は、いつも、ぶっとい万年筆で書いてある。たぶん、ペン先が平べったいんだと思う。インクはたいてい、茶色。なかなか返事が出せなくて、すみません。旅行に出てることが多くて、しかも、ウルトラ筆無精なもんですから。
 モンブランだかペリカンだか知らないけれど、これだけ見ても、彼が「モノ」に対して、凝り性の固まりみたいな人であることは、よくわかる。
 こんな万年筆を使う人は、まちがいなくカメラ好きだ。実際、彼は中古カメラ修理の名人でもあるらしい。だとすると、頼みたいものがいくつかある。スローシャッターの具合が悪いライカM2とか・・。
 そんな彼が流木を焦がした作品を、東銀座のギャラリーで、何度か見た。海辺で流木を拾って、それを虫眼鏡(?)でじりじり焼いて、木目に沿って丹念に焦げ目をつける。それがきれいな台に設えられて作品となるのだが、はたして仕上げるのにどれほどの時間がかかるんだろう。
 同じことをやり続けるのは、かっこわるいとも思うし、かっこいいとも思う。その判断は、見る側のセンス(嫌な言葉だが)による。郷津さんは、そのぎりぎりのところで、じりじりと流木を焦がし続けているんだろう。

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